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浦和地方裁判所 昭和55年(わ)852号 判決

本店所在地

埼玉県戸田市大字美女木四〇〇三番地

株式会社吉川機械販売

(右代表者代表取締役吉川義一)

本籍

同県同市大字美女木三八三八番の一

住居

同右

会社員(元会社役員)

祖父江進洋

昭和八年八月一五日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官松野操一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社株式会社吉川機械販売を罰金一、〇〇〇万円に、被告人祖父江進洋を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人祖父江進洋に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社吉川機械販売(以下「被告会社」という。)は、埼玉県戸田市大字美女木四〇〇三番地に本店を置き、土木建設機械等の販売及び賃貸等を目的とする資本金一、五〇〇万円の株式会社であり、被告人祖父江進洋(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、部下の斉木賢一郎及び同辰己由雄と共謀のうえ、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空経費を計上して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五一年六月一日から同五二年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三、三六九万一、二六六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年七月三〇日同県川口市西川口四丁目六番一八号所在の所轄西川口税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七七七万四、一四八円でこれに対する法人税額が二〇二万四、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一、二三九万一、七〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額一、〇三六万六、八〇〇円を免れ、

第二  昭和五二年六月一日から同五三年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九、七九七万九、七三四円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年七月二八日前記所轄西川口税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、九四六万九、二〇一円でこれに対する法人税額が六八九万九、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三、八三〇万三、四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額三、一四〇万四、〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人祖父江進洋の当公判廷における供述

一  第二回公判調書中の被告人祖父江進洋の供述部分

一  被告人祖父江進洋の大蔵事務官に対する質問てん末書一九通及び検察官に対する供述調書三通

一  被告会社代表者吉川義一の第二、一〇、一一回公判調書中の各供述部分並びに大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一  吉川義孝の大蔵事務官に対する質問てん末書六通及び検察官に対する供述調書

一  斉木賢一郎の大蔵事務官に対する質問てん末書八通及び検察官に対する供述調書二通

一  辰己由雄の大蔵事務官に対する質問てん末書二通及び検察官に対する供述調書

一  西川口税務署長作成の昭和五四年四月四日付(第三六号証)及び同年七月一六日付(第四一号証)各証明書

一  登記官作成の登記簿謄本三通

一  大蔵事務官作成の簿外売上及び売掛(未収)金、リース料等簿外売上、機械の簿外売上、(株)吉川機械販売岡山営業所簿外の売上及び売掛金、期首及び期末リース機械たな卸高、リース機械、架空経費等、未払費用、リース機械減価償却、簿外の預金及び受取利息、簿外雑収入(仮払源泉税)、交際費限度超過額、簿外経費(除く給与)、簿外給与、貸倒金、その他益金、たな卸及び簿外リース用機械勘定、簿外受取利息及び役員報酬、個人収支に関する各調査書

(補足説明)

一  簿外リース機械の減価償却について

被告会社の弁護人は、本件ほ脱事犯は、被告人がその私的利益を図るためになされたものであって、被告会社の利益を図るためになされたものでなく、かかる事情のもとでは、法人税法三一条一項により本件簿外リース機械について減価償却を認めるべきである旨主張するが、被告人が被告会社の代表取締役としてその業務に関し、ほ脱をした以上被告人のほ脱の動機の如何を問わず、被告会社がそのほ脱について責任を負わなければならないことは当然であるから、仮に被告人がその私的利益を図るためにほ脱をしたとしても被告会社はその責任を負うべく、従って、被告人がほ脱をする過程で生じた本件簿外リース機械について償却費として損金経理がなされていない以上その減価償却費を損金として認めることはできないものといわなければならず、右弁護人の主張は採用することができない。

二  持込資産について

被告会社の弁護人は、被告会社の前身である吉川商店東京営業所が発足した際持ち込まれた吉川義孝の個人資産であるリース用機械五、〇〇〇万円相当のものが、被告会社が法人成りした昭和四六年七月以降も精算されず、簿外のまま、被告会社の営業に使用されてきたのであるから、本来、それによって生ずる収益は吉川義孝個人に帰属し、被告会社の所得からこれを除外して算定すべきであり、吉川義孝が被告会社から持込資産の回収分として受領した八〇〇万円は、被告会社の所得から除外すべきである旨主張する。

そこで検討するに被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官に対する昭和五五年六月二日付供述調書、吉川義孝の大蔵事務官に対する昭和五三年一一月二二日付質問てん末書、辰己由雄の検察官に対する昭和五五年五月二八日付供述調書、同人の大蔵事務官に対する昭和五三年一二月一日付質問てん末書及び押収してある貸借対照表一綴(昭和五八年押第一七四号の1)等関係証拠を総合すると個人商店である吉川商店を経営していた吉川義孝において昭和四四年七月発足した吉川商店の東京営業所(被告会社の前身)にリース用機械を持ち込み、更に同年一一月吉川商店が法人成りした株式会社吉川土木機械製作所においてリース用機械を右東京営業所に持ち込んだが、同四六年七月右東京営業所が被告会社として法人成りした際、吉川義孝に派遣されてきた高木税理士及び辰己由雄において右各持込資産の精算をしていることが認められる。

また、仮に吉川義孝の持込資産について精算がされていないとしても被告会社は吉川義孝から貸与された右持込資産を使用して収益をあげたのであるから右持込資産による売上も被告会社の所得とみるべきであり、いずれにして同弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

半示各所為はいずれも行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項(さらに、被告会社については、同法一六四条一項、被告人については刑法六〇条)に、裁判時においては右改正後の法人税法一五九条一項(さらに、被告会社については、同法一六四条一項、被告人については刑法六〇条)に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから同法六条、一〇条によりいずれについても軽い行為時法の刑によることとし、被告人については、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金一、〇〇〇万円に、被告人については、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一〇月にそれぞれ処し、被告人に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 原田保孝)

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